伝統工法でお宮さまの銅板屋根を修繕

お客様のご要望 

古くからある地元企業様の敷地内に建てられたお宮様の修繕工事です。
この工事は知り合いの塗装業者が請け負った工事でしたが、劣化が酷く塗装での修復が難しいということで、弊社に屋根施工のお話がまわってきました。
お宮さまは土地を守り、会社の商売繁盛や安全といったさまざまなご利益が得られると言われているのでお客様の大切にしたい想いを感じました。

お客様のご要望

  • 屋根の修繕
  • 劣化箇所を直して大事にしたい
  • 近隣住民が近くにあるのでゴミの飛散には細心の注意をはらう
  • 従業員以外にも様々な人の出入りがあるので気をつけて作業する

現場調査

現地にて元請け様と打ち合わせをして、工事内容を確認しました。

建物の状況

工事中に出てきた新聞紙。
昭和32年と記載されているので、少なくとも屋根は66年経過している。

屋根材は亜鉛鋼板で別名トタンです。
現代でも一部で使用されていますが錆防止のために塗装メンテナンスが必須で耐久性もガルバや銅板と比べて低いです。

至る所には塗装の剥げや錆が発生しており、一部は目視でも分かるような大きな穴がありました。
元請けさんが塗装をあきらめたのはこのような劣化が原因です。

戦後十数年の当時を想像すると激動の時代の中で手抜きのない素晴らしい施工です。
一つ一つの曲線が綺麗に出ており当時の職人さんの技術力と想いが伝わります。



調査後のご提案内容

①トタン屋根から銅板屋根に葺き替え

現代ではガルバやSGL鋼板が一般的ですがそれよりも高級なのが銅板です。
屋根材としては最上級で高級でもありますが耐久性が高く、何よりも風合いが良いです。
緑青という錆びが発生する事で経年劣化を味として楽しめる数少ない屋根材です。

また、社寺といった今回のような複雑なつくりでも自在に対応して加工ができるのが銅板の特徴でもあります。

②下地の交換

雨漏りしていることが容易に分かることから野地板は交換か重ね張りが必須なことは明確でした。
問題なのは野地板以外の劣化が発生しているか?交換は必要なのか?の判断。
しかし解体してみないと調査が出来ない為、最悪な状態を想定しての見積もり作成と工事を進めながら工事内容を判断することにしました。

塗装工事

元請け様が塗装屋さんなので、塗装は弊社の進捗に合わせて施工するように工程を組ませていただきました。

④仕様内容

屋根材 三菱マテリアルt=0.35 銅板
鬼板金 護国 B-17型
木材 杉、赤松

⑥概算内容

工事期間 約1か月半程度
工事内容 仮設足場設置
屋根解体工事
木工事
屋根銅板工事
費用 都合により費用は未公開
※銅板に関しては材料値段の変動が大きい(2020年と2023年の銅の値段を比べると2倍)ので、その都度確認をおすすめします。

工事の流れ

解体工事

お宮様に限らず、修繕工事における解体はどこまで再利用出来るかの判断が難しいです。
例え解体のプロでもお寺や神社は他の建造物とは造りが違うので経験と知識、予算感を理解していないと不要な工事を行ってしまい無駄な手間や工事が増える可能性もあります。

平井板金の場合は元宮大工の職人がいるので適切な判断が可能です。


そして、実際の解体工事を行ってみると想定していた悪いパターンの劣化具合。
野地板、垂木、裏甲という屋根を構成するほどんどに腐敗があり再利用は難しい状況です。
屋根から下の天井板などにも劣化がありましたが、お客様と元請け様と相談して屋根修繕を優先して、それ以外の劣化に関しては予算的に切りがないということで目をつぶる事になりました。

木工事

お宮さまやお寺、神社の建造物は建物の曲線で意匠がきまります。
この加工が住宅
大工と宮大工で大きく違うところと言えます。
このお宮様も小さいながらも綺麗な曲線が出ていたので同様に修繕をします。
電動工具などの文明の利器を使いながらもカンナやノミといった昔ながらの手道具を駆使して刻み加工をします。

このR屋根の箇所は蓑甲といいます。
一つ一つ大きさも形も違うため修繕では職人の感と経験が頼りになります。

銅板屋根工事

意匠性の高い工事における板金施工の技術力の違いは固定方法で分かります。
一流の施工は見えるところに釘やビスを使用せず、吊り子やハゼといった施工方法で仕上げるので見た目がシンプルになり洗礼された仕上がりになります。

仏教には「禅の思想」というものがあります。
この工事はお宮様なので不適切かもしれませんが、「禅」とは無駄なものを省き、あるがままを感じるといった本質を知ることにあります。
お坊さんの行う座禅もその精神といえます。
これは建築や芸術にも通ずるものがあり、社寺仏閣のような建物の直線、曲線、反りは無駄を省いた中にある意匠性を追求した美学であると思います。

私が工事で大切にしている考えに「シンプルイズベスト」があります。
これは宮大工を経験したなかで自然と見についた「禅の思想」なのかもしれません。

四隅の銅板の重なりR部分の屋根は「ハマグリ」と言います。
一般建築ではほぼ扱うことがない社寺仏閣の特徴的な施工です。
そのため同じ板金職人でも触ったことも名前も知らない方もいます。

ビフォーアフター

建築と美学と時代

平井板金ではこれまで住宅、店舗、工場、社寺など様々な建物の改修工事を行っていますが
同じ建物はほとんど存在しません。
時代によって建物に対する価値観の変化を感じます。


昭和後半のバブル期の建物は大きさや見栄えするようなデザインであったり、地元大工さんが設計施工をする事が多かった時代なので大黒柱や床の間などで特別な価値に拘りを持った建物が多くその施工技術力が職人も評価された時代です。
この頃の一般住宅の屋根は銅板を使うことは今ほど珍しくなく、玄関にポイントで使うこともありました。

平成になると時代はデフレ、建物にも安さが求められました。
多くのハウスメーカーが勢力を伸ばしていく中で最も売り上げのあるメーカーは建売住宅などを主体とする安さを売りにする建物でした。
建材は規格品を工場で大量生産を行い、それを現場で職人が組み立てる事で家が完成する。
なのでこの頃の職人は綺麗に仕上げるよりも速さが求められました。

そして時代は令和。
SDGsや多様性が求められる現代では平成のような安さだけでなくコストパフォーマンスが求められ、建築業界では家の性能を上げる動きが活発になっています。
しかも地域性に合わせることやそれぞれの顧客ニーズに合わせるながらも、新しい付加価値を模索しているのが今なのではないかと感じます。

 

昭和のようにこてこてに価値を足すのではなく、平成のように安さを追求するのではない。
その次の時代。
私はそれは社寺仏閣の中にヒントがあるように感じます。

無駄を省いた中で見える美学。
建物と自然との調和。
長い年月が経っても価値を残し
経年劣化を風合いとして楽しめる。
いつまでも地域に愛される。

社寺に限らずそんな建物で家族や仲間と過ごせれば幸せではないでしょうか?
平井板金は古くなった建物を蘇らせることができます。
その中で若手職人を育て技術を伝承し、培ったノウハウに磨きをかけて新しい道を切り開いて行く思いです。

どの時代でも美しいと言われるような屋根と外壁を作り続けます。

どんな時代の建物でも、なにかお困り事がございましたら、ぜひ平井板金にお任せください。

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